秋の病気治療のポイント

2020-08-20

1.らんちゅうの病気とは何か

 らんちゅうの病気について考える時、私は何時も元観音崎生物研究所長の亡き四竈(シカマ)先生を思い出します。先生は、日本で初めて、タイの人工孵化に成功した人ですが、私の「金魚の病気とは何ですか」の質問にその答えとして、「金魚の病気と健康の違いは、羅針盤の針の振れのようなもので、通常、病気と呼んでいるほとんどの場合が、この振れの大小を取り立てているに過ぎないことです。」と教えていただきました。そう考えると金魚も人間と同じように、治療よりも予防が大切であると同時に、正しい飼育が基本であるということになります。

 特にらんちゅうのように、人間によって人工的に飼育されている場合には、病気のうち90%以上が飼育者によって自然本来の「生」を撹乱させられた結果であるといっても過言ではないと考えます。したがって、らんちゅうが弱いから病気になり死んだのではなく極論すれば飼育者によって殺されてしまっているのです。

 それ故、らんちゅうの病気とは何かを考えるとき、らんちゅうの自然本来の生を撹乱させない正しい飼育環境の確保が重要と考えます。

2.らんちゅうに最も多い病気・えら病

 2-1.はしかえら病

 現在、らんちゅう飼育者の多くが体験する病気にはしかえら病(小生が勝手に命名しました)があります。症状は両えらがめざしのように開き、稚魚期ですと全滅することがあります。ただし、この病気の特徴は、らんちゅうが感染し、完治しますと二度と発症することがないことです。水産学会等では、、細菌説、ウイルス説の両論がありますが私は、ウイルスが原因と考えています。

 その理由は

  1)今まで元気だった稚魚が急に泳がなくなる。
  2)両えらが開き餌を食べなくなる。
  3)一度発症して完治した飼育槽の魚や水を未感染槽へ添加しただけ  
    でも発症するからです。

 対策としては、らんちゅうを絶対安静にし、(0.5%~0.6%の食塩水浴を行う)浸透圧調節が完了するまで数日間放置することです。

 その時の水温は20℃~32℃と幅がありますので、自然体で治療すべきです。なお、らんちゅうが泳ぎだしたからといって急に消化吸収の悪い餌を与えますと、腸が弱っておりますので、松かさ病等の2次感染を誘発させてしまいますので注意してください。

 赤虫等水分の多い餌を少しずつあたえてらんちゅうの内臓の機能回復を図ってやるべきです。

 2-2.秋期に発生するえら病

 秋期に発生するえら病を大別しますとエロモナス菌等が原因で発生するえら病とカラムナリス菌が原因で発生するえら病になります。

 前者の方は、比較的病気の進歩が遅いので、片えらを閉じているらんちゅうを見つけ次第、濃厚食塩浴(水10リットルに塩500グラム入れ、90秒らんちゅうを入れる)を行えば、大抵の場合、完治することが多いのです。一方、後者のカラムナリス菌の方は前日にえら蓋を閉じて飼育槽の片隅にじっとしていたらんちゅうが次の日には死んでしまったという例がよくある位病気の進歩が早いのです。この細菌は、動的細菌という言葉から推察できますように、一旦、えらがこの細菌に犯されますと、非常に速いスピードで病状が進行してしまいます。それ故、発見が早ければ上記の濃厚食塩浴が有効ですが、一般的には予防が重要です。

 予防方法としては、

1)餌の消化不良が原因で飼育水質を悪化させないこと(現在市販されている固形飼料は、消化吸収率が80%程度ですから、残り20%は飼育水中に溶け出し、水質を悪化させる)

通常、餌は1日分を何回かに分けて与えますが盛夏時(高温)の習慣が抜け切れず、夕方の水温の下降時に、固形飼料を与えたために、消化不良を引きおこし、飼育水中のアンモニア濃度と浮遊粒子濃度を上昇させてしまうのです。

2)1日の水温変化を大きくしないこと

らんちゅう飼育した経験者は誰でも秋期の水替え時には、緑水の割り込み量には苦労します。秋期といっても日中は水温が上昇しますので、うっかり緑水量を多くしますと、晴天が続けば2日位でまた水替えをしなければならなくなります。そうかといって、割り込み量が少量ですと、天気が悪ければ、植物プランクトンの増殖が鈍く、保温効果が出せないだけでなく、アンモニア濃度が大きくなり、カラムナリス菌にえらが犯される原因を作ってしまいます。

3)飼育槽、飼育条件の異なるらんちゅうを合流させないこと

飼育槽が異なれば各飼育槽ごとに、常在菌が異なります。つまり、同一飼育槽内のらんちゅうは、、常在菌には、慣れていますので、ストレスは感じません。しかし、常在菌が異なる他の飼育槽のらんちゅうが1尾でも混入しますとそのらんちゅうからの持込により、(飼育槽内が落ち着くまでは)ちょっとしたパニック状態です。特に他家産の魚を購入した場合や研究会または、品評大会等後に、魚病の発症がみられるのはこのことです。

 2-3.ウイルスによるえら病

 品評大会に出品したらんちゅうが急死することが各地で報告されています。症状を分類しますと、

 1)体部や尾部に棒状白点が現れる。
 2)体の表面は異常がないのに、ぽっくり死する。
 3)えら葉が極度に貧血状になる。等です。

 これらは、ヘルペスウイルス、イリドウイルスが原因といわれておりますがパーフェクトな対策はありません。

 やってみる対策としては、ウイルスに効果のある薬はありませんのであらかじめ免疫ふかつ物質を食べさせておく等の予防が重要です。最近ではスピルリナがビタミンCの吸収を促進するとの報告があります。スピルリナ入り配合飼料の利用や、ブラインシュリンプの二次栄養強化(免疫ふかつ剤入り)をしてらんちゅうの体力増強を図ることをお勧めします。

平成14年度 金城会会報 No.47 寄稿

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